針穴モダニズム

morio01012007-06-30

地下鉄中央線の西の終点が大阪港駅だった頃、天保山あたりには倉庫や工場が居並ぶだけで、今のような観光施設*1などは何もなかった。四国だか九州だかに向かうためのフェリー乗り場はいかにも場末の雰囲気を醸し出しており、そのうら寂れた風情を旅情と呼ぶのであれば、見知らぬ地への思いはおよそ悦楽気分から遠いものであったと言わざるをえない。それくらい廃れていたのであった。
天保山にほど近い中央突堤と呼ばれた場所には、あまり手入れされていない小さな公園がひっそりとあって、地元の釣り人や子供たちがたまさか訪れるくらいであった。その場所もここ10年くらいの間に画期的な変貌を遂げ、もはや往時の寂れっぷりなど微塵も感じさせない立派な場所になってしまったが、この突堤へ向かう途中には、昔と変わらぬ美しい姿を見せる近代建築のビルが二棟残っている。そのうちの一つ、商船三井築港ビルの1階にあるステムギャラリー*2で開催中のtearoomさんの個展(大場典子写真展『針穴モダニズム*3)にでかけてきた。
大正から昭和初期に建てられた近代建築の針穴写真を同時代のビルのギャラリーで展示するという、両方面に造詣の深いtearoomさんならではの試みである。白黒写真の美しくなめらかな階調がまずは目に心地よく映る。さらに針穴写真独特のもの柔らかな描写が、近代建築特有のフォルム、気配と見事に調和をなしていて、何か夢を見ているような気分になってきた。カラーにはカラーのよさがあるものの、ここでは白黒にすることで種々の具象性を排し、歴史性や存在感だけを見事に浮かび上がらせている。モノクロが単にレトロとか懐かしさを誘うとかそういうわかりやすさだけで使われているということではない。
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ギャラリーの終了時間まで針穴写真談義などで盛り上がった後、tearoomさんを囲んで会食をすることに。梅田に出る前に東京からいらっしゃったしきはんさんやくみさんを中之島にお連れして、中央公会堂や中之島図書館を楽しんでいただいた。宴は大いに盛り上がり、気がつけば11時を大きく廻っていたのだった。
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*1:海遊館サントリーミュージアム・観覧車・マーケットプレイスなど

*2:大阪市港区海岸通1-5-25 商船三井築港ビル1階 Tel:06-6599-2877

*3:2007/6/26〜7/7 13:00〜18:00 入場無料 無休