古筆名筆で眼福

近世までに書写された古筆のいいとこ取りをしたずるい書物を「手鑑」という。もともとは一冊一冊の写本として存在していたものであるが、なにしろ数が少ない。ところが、武士や町人という新しい鑑賞者層が厚くなるに従って、一部でもよいから所有したいという欲が渦巻くようになる。ないものはしかたがない、では切ろう、ということで、古筆はバラバラに分割されて、各方面に散り散りとなってしまった。当時の(お金を持っている)人たちはそれをカタログ、アルバムのように集め、「手鑑」として鑑賞していた。
現存する手鑑は『見努世友』(出光美術館蔵)、『藻塩草』(京都国立博物館蔵)、『翰墨城』(MOA美術館蔵)の三帖(いずれも国宝)をもって最高のものとする。出光美術館で現在開催中の「古筆手鑑」展*1では、このうち前の二つを展示する。同時公開は初めてのことであるらしい。いずれも平安時代から室町時代初期までの名筆を集成しており、その質の高さは疑いようがない。見た目は文字ばかりの地味な展覧会であるが、内容の面からすれば、これほど豪華な催事はめったにない。地味ゆえに人も少ない。好きなものに好きなだけかぶりつきで見ることができる*2。他には江戸時代に制作された標準的な手鑑や、近現代に再構成された手鑑なども見ることができる。前田家旧蔵の『濱千鳥』や益田孝、田中親美の関わった『谷水帖』*3などが見ものであった。
目をおおいに喜ばせた後は、針穴カメラを振り回しながら、皇居のお堀端を少しだけ散策した。ここに来たのは久しぶりだ。まだ昨日の雪が少し融け残っていた。
the Imperial Palace the Imperial Palace