映画

蜘蛛巣城

[DVD]" title="蜘蛛巣城 [DVD]" class="asin">シェークスピアの「マクベス」を日本の戦国時代の物語に翻案する。 欲望に取り憑かれた鷲津浅茅の悪魔の囁きが彼女の夫武時を破滅の淵へと導く。実体化した物の怪が登場し、行く末の予言をするなど、リアルな戦…

愛のむきだし

園子温監督の「紀子の食卓」は世評も高く、DVDも手に入れているのに、いまだに棚に収まったままである。それで「時効警察」のいくつかに脚本と演出で参加しているものしか知らない。これはこれで楽しんだものの、「愛のむきだし」を劇場で、とまでは気分は高…

羅生門

私には「小津安二郎vs黒澤明」は「木村伊兵衛vs土門拳」と同じ対立構図に見える。そしていずれも前者に比して後者が苦手である。安易な二項対立は対象の本質を見誤るおそれがあるものの、もうかなり長い間この印象は変わらないので、私の中での評価軸が揺れ…

キューポラのある街

吉永小百合って1945年3月生まれだったのね。初めて知りました。先日見た「名刀美女丸」公開の翌月のこと。そうか、そういう御年なのか。 急激な経済成長前夜の、まだ明るい未来を思い描けない時代の閉塞感が世を支配する。明日を信じて、あるものは進学を志…

名刀美女丸

1945年2月に公開された映画である。当時は撮影用フィルムも配給だったとのことで、1時間程度の作品しか撮ることができなかったらしい。溝口健二に師事した新藤兼人は「食うために作った映画」(DVD収録のインタビュー)と言い、この作品をまったく評価して…

夜の女たち

1948年の溝口映画を観る。主演は山田五十鈴ではない。 戦後まもなくの混乱する大阪で、夫と息子を亡くした女性が、生きるために夜の世界へ足を踏み入れる。自らを慰みものに貶めた男達への復讐を誓う女を田中絹代が演じる。生きるというシンプルな営みが、こ…

浪華悲歌

溝口健二監督が撮影した1936年のふたつの作品「祇園の姉妹 [DVD]」「浪華悲歌 [DVD]」は、いずれも傑作の誉れが高いものである。両作とも主演は山田五十鈴である。 男をいいようにたぶらかす女が、最後に手痛いしっぺ返しを受ける。京都の芸妓と大阪の職業婦…

祇園の姉妹

山田五十鈴、いい。 かの小津安二郎をして「こういう映画は撮れない*1」と言わしめた「祇園の姉妹」には、19歳の山田が出演している。これを見ると、今時の19歳の俳優のあまりの軽さ、薄さ、緩さに呆然としてしまう。圧倒的な存在感と凄みである。 京都の花…

流れる

キャストされる女性俳優陣が1950年代のオールスターと評される作品らしい。幸田文の同名小説を原作とする。 煌びやかな花柳界の裏側を描きながら、時の流れに取り残されて零落するしかない置屋の内実を描いている。田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、岡田茉莉…

雨月物語

1953年の作品である。溝口健二監督。 上田秋成の「雨月物語」に収められる「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編に着想を得て、翻案、再構成をしている。もともとの怪異譚のおどろおどろしさを残しながら、巻き込む人間の身勝手さと不条理さ、巻き込まれる側の哀…

=草間彌生 わたし大好き

先日のエントリーに書いた「Pen」の草間彌生特集はたいへん読み応えのあるものだった。草間に関心のある者は必読の一冊だろう。そしてそこでも紹介されている草間彌生を追いかけたドキュメンタリー映画「=草間彌生 わたし大好き」(松本貴子監督)もまた必…

浮雲

きちんと観ていない古い邦画を知りたいと思い、手始めに名作の誉れが高い成瀬巳喜男の「浮雲」を観た。1955年の作品である。 高峰秀子の顔を見ながら、原節子のことを思い出し、当時はああいう鼻筋の通りすぎたような顔が好まれていたのか、私の嗜好とはずい…

年末にプチ麻生久美子祭

映画館で見逃してしまった「インスタント沼*1」と「ウルトラミラクルラブストーリー*2」をまとめて観た。いずれも麻生久美子が主演あるいは準主演を務める。 「時効警察」のキャスト、スタッフが作った前者は中の上、主演の松山ケンイチの演じる青年の諄さが…

スラムドッグ$ミリオネア

みのもんたが司会をしていたという日本のクイズ番組は見たことがない。大きなお金が動くものだということくらいは知っている。なんでもイギリスで制作する本家版があり、それをローカライズして世界各国で放送されているらしい。 ムンバイのスラム街出身の青…

空気人形を探す

穏やかな天気に誘われて、自転車で走り回ることにする。 深大寺*1にある関東最古の仏像を見に行くつもりにしていたのだが、11月末には25年ぶりに秘仏を公開するようで、その時に行く方が見学にはちょうどいい。それで是枝裕和監督の映画「空気人形*2」のロケ…

空気人形

あなたの息で私の体を満たして 体の一部が破れて空気の抜けた人形が、好きになった男に息を吹き込まれて甦る。是枝裕和監督がこの映画を撮るきっかけになった原作漫画*1の1シーンである。これ自体が男女の情交場面の喩であることを強く意識していると、パン…

ノーカントリー

コーエン兄弟の映画は人がよく死ぬので見るのが辛い。「ファーゴ」の最後の場面を思い出すと、今でも軽い吐き気を覚える。米アカデミー賞をいくつも獲得した「ノーカントリー」も、理不尽なまでに殺人が繰り返されると知り、wowowで録画したものを「見たいけ…

色即ぜねれいしょん

礼文島の桃岩荘ユースホステル*1の馬鹿騒ぎにはついていけなかったなぁ。悪夢と言ってもよい。ここに限らず、ユースホステルの夜の集いや歌やハイキングなど、集団行動が嫌いで苦手な私にはよい思い出がない。もちろんこの物語の主人公たちのような血のたぎ…

20世紀少年 第2章 最後の希望

原作通りだなと驚かされるのは登場人物の姿形ばかりで、それ以外は派手なわりには空疎な印象が残った。物語もほぼ原作に忠実にあろうとしているけれど、あれだけの長い話をコンパクトにまとめないといけないから、どうにも早送りでダイジェストを見せられて…

グーグーだって猫である

猫の話かと思っていたら、ぜんぜん違っていた。 最初の飼い猫が亡くなるところでは目頭を熱くしたが、二匹目の猫(グーグー)の存在感は恐ろしいほど希薄である。かわりに主人公の四十路の恋やら難病やら若者の夢やらが長々と語られて、「これ、何の映画だっ…

マイ・ブルーベリー・ナイツ

ジャズシンガーとしてのノラ・ジョーンズ好きとしては、微妙な心持ちで観ることになった作品である。 最も印象に残るのは映像の色調である。クロス・プロセスで作り出したかのような強い色とコントラストの絵は美しいと思うけれど、それを100分間続けて見せ…

マン・オン・ワイヤー

1974年8月、ワールド・トレード・センターのツインタワーにロープを張って綱渡りをしたフランス人がいた。 当時「史上、最も美しい犯罪」と称されたこの大道芸の一部始終を、関係者のインタビューと再現映像、当時の写真を組み合わせて再構築している。見所…

崖の上のポニョ

「大ヒット上映中」からちょうど1年後、自宅で密やかに観た。そして最近のジブリはどうも好みに合わないことをあらためて確認した。 宮崎駿というビッグネームを前にして、ファンを公言し賞賛してやまないか、それとも大衆と自分は違うのだと格好をつけるの…

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

見知ったものに少しだけ手を入れて、安心感と新鮮さを感じさせてくれたのが「序」であった。それに対して「破*1」はまさに「破」だった。記憶にない絵が次から次へと明滅し、固唾を飲んでそれらを見守っているうちに、気がつけばエンディングを迎えていた。…

俺たちに明日はないッス

ここまでガツガツしていた覚えはないけれど、極端に誇張すればこうなるかと思わなくもなかった。男女の区別なく、下半身に思いを込めすぎる17歳たちが主人公である。さそうあきらの原作漫画を、タナダユキ監督が実写化した。 筋らしい筋はほとんどなく、高校…

おと な り

人妻である空蝉の寝所に忍び込んだ光源氏は、薄暗い室内で音だけを頼りにして姿の見えない相手のことを探ろうとする。源氏物語空蝉巻のことである。本文では聴覚推量の助動詞「なり」を多用し、耳の感覚に導かれながら女に接近していく光源氏をスリリングに…

デトロイト・メタル・シティ

喪に服している最中に見た。これほど似合わない映画もないだろうが、これほど気晴らしになる映画もないと思う。とても楽しめた。 夢見ていたことと実現することは往々にして乖離してしまう。哀しいくらいに。この物語の主人公もお洒落で可愛いポップアイドル…

WALLE

PIXARの映画は「トイ・ストーリー」と「ファインディング・ニモ」の二作を観ただけである。端的に言えば、あのディズニー精神を具現化したようなお伽話に馴染めないのだ。もちろんそれはあくまでもこちら側の問題で、無邪気に付き合える娯楽映画としてはきっ…

おくりびと

大きな賞を獲った作品*1を脊髄反射的に激賞することなどもちろんよくしないし、だからといって重箱の隅をつつくように難癖をつけて通ぶるのも落ち着かない。 良い:人間の尊厳とは何かを考えさせるきっかけになる(かもしれない)。納棺士の所作は見事。 悪…

罪とか罰とか

ケラリーノ・サンドロヴィッチが成海璃子を使ってドタバタコメディを作る。 映画全体を支配するのは現実にはありえない不条理な突出感、あるいは倒錯した世界観である。この逸脱っぷりを喜べるかどうかでこの映画の評価は大きく変わるだろう。そういう意味で…