映画

光の雨

高橋伴明監督による連合赤軍事件の初めての映画化作品である。2001年に公開された。立松和平の同名小説を原作とするが、それをそのまま映像に移したのではない。 社会的な事件をドキュメンタリーよろしく描こうとしたのではなく、劇中劇(事件を30年後に映画…

風の歌を聴け

村上春樹のデビュー作を同郷の大森一樹が映画化した。1981年の作品。 原作は神戸、芦屋、西宮あたりが舞台になっていて、撮影地も同じ阪神地区なのだけれど、役者が皆、標準語を話すものだから、どこの話かよくわからない無国籍で不思議な気配の映画になって…

ゆきゆきて、神軍

この映画が911以後に発表されたのであれば、「世界の番人」を自負する某国の姿を奥崎健三という人物に仮託して描いているように見えるだろう。マイケル・ムーアが絶賛したというのも頷ける。自らを客観視できない輩が、自分以外に正義なしという思いに突き動…

愛を読むひと

「タイタニック」の頃からすると、ずいぶん緩い体つきになったなと、ケイト・ウィンスレットの「体当たり」の演技を見て思う。名作の誉れ高いものを見ながら、こんなくだらないことを考えている。でもなんで一糸まとわぬ姿になったら、「体当たり」という表…

ホノカアボーイ

蒼井優*1が出ているという理由だけで観る。 かつて恋人とともに訪れた地に自分探し*2の旅でやってきた若者が、穏やかに暮らす現地の人たち*3との交流によって癒される話、と思っていた。おおむねそうなのであるが、倍賞千恵子演ずるびーさんという老婆の老い…

月曜日のユカ

加賀まりこと聞けば、とてもきつそうな人*1という印象が強い。しかし、この映画の加賀のなんとキュートでコケティッシュなことか。メイクも衣装もスタイリッシュなバービー人形のように見える。すごいな、カタカナ語だらけだ。 男を喜ばせることに生き甲斐を…

踊る大捜査線 The Movie 3 ヤツらを解放せよ!

7年ぶりの新作である。 テレビシリーズから始まって、スペシャル版、劇場版と楽しんできた。大雑把な刑事ドラマではあるが、スピード感、爽快感が好ましくて見続けている。 しかしながら、最新作は同窓会的なノリが強すぎる。過去の出演者が皆集まって、そ…

シーサイドモーテル

山奥にあるのに「海辺のモーテル」と名付けられた場所を舞台にする。すでにこの時点で大いなる虚構が組み上げられている。四室それぞれに物語が進行し、登場する人物はみな腹に一物を隠し持ちながら、いかにして相手を騙しきるかに腐心する。やがてそれぞれ…

山椒大夫

安寿と厨子王の物語として知られるこの作品は森鴎外の小説でもおなじみのものであろう。溝口健二監督の作品で1954年に公開された。 人道主義者であった父の思い描く理想がなすすべもなく現実に敗れ去り、一家離散の憂き目を見る。幼かった長男はやがて成長し…

のだめカンタービレ最終楽章 前・後

昨年末に公開された前編に続いて、この連休に合わせて後編が封切られている。 原作漫画の世界を実写でうまく表現した作品として、テレビで放映されていた時から好評を博していたものであるから、映画になっても安心して見られる。もっとも「映画」でやる必要…

20世紀少年 最終章 ぼくらの旗

ぼくらの旗 豪華版 (本編DVD1枚+特典ディスクDVD1枚)※生産限定" title="20世紀少年 ぼくらの旗 豪華版 (本編DVD1枚+特典ディスクDVD1枚)※生産限定" class="asin">原作を愛するものとして、義務感だけで見終えた。 1作目は演出が少々派手なところを除けばま…

大丈夫であるように Cocco 終わらない旅

どういうわけか、今の今まで見逃していた。是枝裕和監督がものしたCoccoのドキュメンタリー映画である。 辺野古、六ヶ所村、広島、ひめゆり。単なる地名ではなく、特別な意味を帯びた象徴的な土地である。何か重大なことが起きているのに、当事者以外は何も…

放浪記

林芙美子の自伝的小説を原作とする成瀬巳喜男監督の作品。1962年。舞台では森光子の代表作としてよく知られている。 全編にわたって生きるために逞しく稼ぐ姿と文学に賭ける執念がたいへん印象深い。高峰秀子の演技に唸る。やさぐれた風貌、下卑た台詞回しが…

風が強く吹いている

劇中のレースシーンを見ながら、同じ陸上競技を映画にした「奈緒子*1」(古廐智之監督)の酷さを思い出していた。あれは嘘くさくてつまらない映画だったなぁ。 三浦しをんの原作は箱根駅伝や大学陸上部を丁寧に取材したもので、リアリティと娯楽のバランスが…

悪夢のエレベーター

サスペンスやミステリーに明るいわけではないけれど、パターンとしては、「誰」を秘密にするものと「どうする」を隠しておくものとに、大雑把に分けることができるのではないか。多くのものは前者に属していて「犯人はおまえだ、めでたし」で終わる。後者は…

山の音

「めし」に引き続き夫婦仲のよくない男女を原節子と上原謙が演じる。こちらの夫は「めし」の無気力無関心夫とは違い、妻には冷淡、浮気をした相手に暴力をふるうなどする問題児である。 ただこの作品はそれがテーマではなく、その問題児の父親(山村聡)と嫁…

狂った果実

唐突かつ衝撃的な終わり方に吃驚した。それ、あり? 「太陽の季節」も「狂った果実」も石原裕次郎のイメージが強い。しかし、それと同じくらい長門裕之、津川雅彦兄弟の妙な存在感が気になって仕方がない。ありていに言えば、皆、苦手……。俳優の台詞や態度に…

めし

小津映画で神棚に祭り上げられるほど神格化された原節子が、成瀬巳喜男の作品で所帯やつれした妻を演じるおもしろさがまずあった。冷たい夫の態度に飽き飽きし、やさぐれてふてくされた表情を見せる原に、初めて血の通ったものを感じたように思う。とはいえ…

時をかける少女

走る少女の姿を追いかけるようにあの主題歌が流れてきて、一気に映画の中に引き込まれる。 1983年に公開された大林宣彦監督による同名作品の設定をほぼ受け継ぐ形で物語が紡ぎ出される。主人公はかつて原田知世が演じた芳山和子の娘あかりであるし、和子を取…

台風クラブ

早世した相米慎二監督の代表作。前に紹介した『オールタイム・ベスト映画遺産200 日本映画篇』でも堂々第10位にランクされている。1985年。 東京近郊のある街の中学校が舞台になる。台風で一晩校舎に閉じ込められた中学生達の情動が描かれている。相米監督の…

サマーウォーズ

なんでブルーレイ版はあんなに高い値付けをするのだろう。DVD版のおよそ倍である。よほどの趣味人しか見ないようなおまけディスクはいらないから、本編だけで安価にすればいいのに。と、ひとしきりぼやいたところで本題へ。 昨日のエントリーに書いたアニメ…

もうすぐ公開のあれ

今週末から「時をかける少女」が公開される。1983年、1997年の実写版、2006年のアニメ版に続いて、4度目の映画化である。1作目、2作目の原作は筒井康隆の同名小説だが、アニメ版と今作は1作目を受ける形で物語が紡ぎ出されている。いずれも高い評価を得…

生きる

[DVD]" title="生きる [DVD]" class="asin">印象としてアクションっぽいものが多いと感じている黒澤明の作品の中にあって、よい意味で地味な映画で、それがとても好もしかった。 絵に描いたようなお役所仕事をする公務員が、やがて自らの死期を知ることをき…

紀子の食卓

「愛のむきだし」(園子温監督)がおもしろかった*1ので、棚にしまい込んでいた「紀子の食卓」を引っ張り出してきた。これまた二時間半の長尺で、いくつかのチャプターに分けられているのも同じである。しかし、「愛のむきだし」(こちらは4時間)のように…

秋津温泉

岡田茉莉子の映画出演百作記念作品である。監督は後に岡田と結婚することになる吉田喜重。だからかどうかは定かではないが、岡田茉莉子を美しく撮ることに専念した映画のように見えた。淡いカラーの色調が美しく、岡田の和服コスプレを堪能することができる…

チェンジリング

行方不明になった息子が警察に保護されて戻ってきた。しかし、その子は自分の子供ではなかった。警察にそれを訴え出ると、こちらの精神に問題が生じているとされ、強制収容された病院で「正しい治療」を施されるようになる。やがて意外なところから事件の真…

幕末太陽傳

古い映画を観ると言っても、やみくもに手を出すわけにもいかず、去年の12月に刊行された『オールタイム・ベスト 映画遺産200 日本映画篇 (キネ旬ムック)』なぞを手引きにして選んでいる。何事も先達はあらまほしきもの、であろう。 このムックで挙げられたベ…

二十四の瞳

最初から最後まで高峰秀子は泣いている。他人の泣き顔につられる人はハンカチ必須。 壺井栄の原作小説は遙か昔に読んだことがある。しかし、木下惠介監督の映画は未見だった。教師と教え子の物語ゆえ、子役の演技力が問題になる。こましゃくれたことをされる…

稲妻

父親がみな違う四人の兄姉妹の物語である。少子化の今では考えにくい設定であるが、当時はこれをどう受け止めていたのだろか、などということは、きっとどうでもよい。成瀬巳喜男の代表作として評価されている「浮雲」より、この「稲妻」の方にずっと引き込…

残菊物語

見事なまでにメロドラマである。 歌舞伎役者が奉公人と恋に落ち、やがて身分違いであることを理由に引き裂かれたあげく、家を飛び出してしまう。旅芸人にまで身をやつすものの、契りを結んだかつての奉公人の献身的な支えによって、再び表舞台に返り咲く。し…